2016.11.03豚の話その1

■豚と面白い話 ―中国では豚は大衆の食べものの親玉―

中国では、広義の「肉」は一切の動物の肉を言い、狭義では「豚肉」を指します。

さまざまな肉料理がありますが、単に肉と表示した場合は豚肉のことで、糖醋肉、回鍋肉と書く場合はすべて豚肉のことです。

牛肉のときは「青椒牛肉絲」と固有名を明記します。家畜肉や家禽肉、あるいは野生の鳥獣肉とも同様に明記します。

コックの聖書とも言うべき『隋園食単』の中に「中国で一番親しまれ、使用量が多いのは豚肉で、豚は大衆の食べ物の広大教主(親玉)である」と一文があります。

 

そんな中国料理、豚料理にまつわるこれホント!?と言いたくなる様なエピソードがたくさんあります。

今回は、このエピソードを全8篇、前編4、後編4で2回に分けてご紹介いたします。

 

1、トン死

明の頃、ある高官の家で宴会があった。席上に一皿の豚肉料理が出た。これが実に旨かったので客の一人がどういうふうに作ったかを、コックに聞こうと思って台所に行くと、その庭に数十頭の豚が血まみれになって捨てられていた。

コックにその訳に聞くと、「いま食べた一皿の料理は、これだけの豚を殺して、その背肉の一部だけを集めたのです」と言った。

コックの話では、豚の背中を棍棒で一撃すると、豚は苦しみ背中に精力を集中するので、すぐ殺して背肉を一切れえぐり取る。そのため一皿の料理に多くの豚を屠ったというのだ。(槙浩史著 中国料理変遷略史)

 

2、鈍なトン

中国の古書に「豚は刀創を得たり、狂犬に噛みちぎられても創傷は患わず、最もすみやかに肉を生じ数日で癒えてしまう」とあるので、当時の人は豚肉を食べれば切り傷が早く治るものと信じていたと言う。

トカゲの尾っぽは、ちぎれてもいつしか再生するし、豚の臀部をちょっとばかり頂戴しても「すみやかに肉を生じる」ならと、貰い口福にあずかった。月に数回はトンカツが食べられる勘定になる。回生の早い豚も災難だが、まことに鈍な豚ですね。

 

3、初めての焼き豚

まだ人間が生肉の味しか知らなかった頃の話。

昔、中国の寒村で少年が飼っていた子豚が小屋もろとも焼けた。少年が駆けつけ、まだけぶる余燼の中から子豚を出そうと豚にさわったとたん、熱くて思わず指をくわえた。少年は訝るように何度も指を舐めてみた。それは今まで味わったことのない香ばしさにビックリ。少年は村人に気付かれないように食べてしまった。

味をしめた少年は子豚の味が忘れられず、仔豚が生まれると小屋に火をつけた。度重なる火災に不審を抱いた村人は、遂に火付けの現場をおさえ、証拠の焼き豚を持って法廷へ突き出した。香ばしい匂いが法廷にひろがり、裁判官が「この豚か」と言って豚に触れた。裁判官は熱さと指のよごれを拭くために口にもってきた瞬間、「こんな旨いものなら無理もない」と少年を放免した。それからというもの、この村では方々の豚小屋が焼けたという。

 

4、豹になった豚

豹胎鳳呑翅(パォタイフォントンツ)と言う珍しい名前の料理がある。豹胎とは豚の胃袋を形容した言葉である。鳳は鶏、翅はフカのヒレ、つまりニワトリの腹にフカヒレを詰め、そのニワトリを豚の胃袋におさめ、トリの頭をだし壺に入れてスープをはって蒸煮する。

解説すると、トリがフカを食べ、豹がトリを丸呑みしたという意味の料理である。ときに豹変じて虎に変わることもある。中国らしい白髪三千丈のネーミングだ。

なお、この料理、誕生当時は本当に豹か虎の胃袋を使っていたという説もある一品。

今となっては、真偽のほどは定かではありません……